「物の興廃は、人に由る」
〈更新日: 2003年04月06日 〉 ※写真が掲載されている場合は、クリックすると拡大表示されます。
「物の興廃は、人による。人の昇沈は、定めて道にあり」という言葉は、弘法大姉空海が「綜芸種智院式」という中で述べている。
「綜芸種智院式」は、弘法大師空海が開いた、日本で最初の庶民の学校「綜芸種智院」の学則とでも言うべきものだ。
言うまでもなく「物の興廃」とは、「人間や人間社会での物事の起こり、繁栄、栄華、荒廃、崩壊などは、全て「人の考えや行いにより起きる」と言っており、
そして「人の昇沈は、定めて道にあり」という言葉も、「人が社会で成功するのも、失敗するのも、全ては、その人の生き方歩み方による」と言うのである。
この教えは、私ども人間が子供から大人へと成長し、国家、社会の一員と成り、社会に独立した個人として成立するための大きな指針というべきものなのだ。
しかし、それにも増してこの言葉の中には、むしろ国家や社会の中で指導的立場に立つ者に対しての「心構えを指摘する」という要素も大きく占めている。
先月から始まった、それこそ愚かなイラク戦争は、その言葉が示す「言葉の存在価値の必要性」を改めて知らされる思いがする。
「ブッシュ大統領」、「フセイン大統領」一国を預かる指導者の生き方、考え方が、こんなにも世界の民衆の命やその国の人々の人生を決定ずけるものなのか。
いくら大統領と言えども、たった一人の人間によって、権限や力のない民衆が、命や人生を牛耳られ、国家という名の下に犠牲を強いられることは、到底理解できるものではない。
第2次世界大戦後、過去の戦争の歴史の上に立ち、あれほどまでに世界中で不戦の決議をし、平和を求めて国連まで結成したのに、どうして同じ過ちを何度も繰り返すのだろうか。
過去とは、未来に向けての礎となるべきものなのに、過去の時間は、ただいたずらに過ごして来ただけだったのか。
戦争を繰り返してきた過去の人間達の「心のあり方」と、今日また再び戦争を繰り返す愚かな指導者達の「心のあり方」には、何の進歩も発達も見られない姿には愕然とする。
人間は、ただ限られた時間の中で生物学的に生まれ、死に変わりするだけなのか。
人間の持つ「素晴らしい心」には、進歩や発達という言葉が当てはまらないものなのだろうか。
現代は、デジタルだ、コンピューターだ、ITだ、ハイテクだ、ロボットだ、宇宙ロケットだと、過去に夢見た全てが実現できている。
とてつもなく素晴らしく、なにも言う事のないバラ色の世界が出来上がっている筈だが。
この世、世界の実体は、いったい何なのだ。
夢が実現し、何事も手に入った筈なのに、相変わらず「人の心の進歩」は、昔と同じ。何も進歩していない。
一体、私達人間が求める幸せとは何なのか。
疑問ばかり目の前に流れていく。
私達の若い頃は、過去の過ちを幾度となく反省し、戦争のない平和な国を求め続けてきた。
そのお陰か、繁栄と栄華を極めてきたのが今日の日本でありアメリカであったと思う。
平和ボケだろうか??
前にも主張したが、アメリカの一国至上主義が、昨年の9.11テロを生んだといっても過言ではない。
繁栄と豊かな暮らしがアメリカを中心とする西側世界にはびこり、反面イスラム世界や発展途上国には、熾烈な貧困と差別を生んだ。
一国至上主義を掲げ、何をおいても世界一に繁栄し、強大な軍事力を背景に力で「他」を押さえつける。
その姿勢には、貧困と差別を解消する力になっているどころか、アメリカに対する憎悪ばかりが世界に充満するものが見られる。
まさに、この姿勢こそ立場を変えたフセインであり金正日とも言える。
しかし、このアメリカの経済力の傘に隠れ、豊かな暮らしをする国民には、虐げられた人々の「あえぎ」、「にくしみ」は理解できていない。
ただ豊かな暮らしや権利を侵す不届き者、憎むべき敵としか見えない。
さらにこれが宗教と絡み、より複雑に事態を難しくしている。
また独裁国家たるイラクや北朝鮮国内の実体には、それこそ想像を絶する悲惨、悲劇な情況が連日報道されている。
これらの独裁国家では、人々の自由を奪い、平和を奪い、たった一人の「わがまま」のために民衆の命を無残に切り刻んでいる。
脱北者、亡命者からの告白からは、恐怖の旋律が背中に流れる。
たった一人の為に、たった一人の独裁者の為に、民衆が苦しみ、命が切り刻まれていくのは、何たる不幸なことか。
極端な保守主義宗教に支配して作られた政治的圧力団体が核となって選出されたアメリカ大統領。
その極端な右より思想の持ち主の大統領に指導されて戦争に走るアメリカ。
どちらの国、世界の指導者の考え、思想を取ってみても異常としか思えない姿だ。
底辺に苦しむ私ども民衆の叫び、庶民の叫びは、いったいどこへ向ければ聞こえとどくのだろう。
どうして幅広い民衆の声の上に立った、民衆の上に立った政治がなされないのだろう。
どうして弱者の上に立った政治ではないのだろうか。
「民主的」、「平和的」、「弱者の視点から」という欺瞞、裏切りの言葉ばかりが指導者の声に充満している。
弘法大姉空海の言う「物の興廃は、人による」、「人の昇沈は、定めて道にあり」の言葉は、一国を守る指導者には、しっかりと自己の思想、自己の根底に収まっていなければならない。
もう独裁者は、たくさんだ。
一握りの人間達の「わがまま」により、世界が不幸に落としいれらることだけには、なりたくない。
とにかく早く今の戦争を終結して、本来の民衆、人民の立場、人々の立場に立った政治を行う方向に向かって欲しいものだ。
国連には、本来的な役割にとにかく期待したいと願うところだ。